Aさんリハビリへ行く

1998年7月6日
この日は以前からAさんにお願いしてあった、リハビリの様子を見せてもらうためにK市立病院へ、ついていくことになりました。
これはAさんが抱えている障害を理解するためで、理学療法士のK先生に写真撮影も特別に許可していただきました。

最初に先生による”運動”と呼んでいましたがリハビリが行われました。
Aさんはベットの上に仰向けになり先生が片足を太股のところから曲げます。それも時間をかけてゆっくりと曲げ、そのままの姿勢で力を加えたまま静止します。Aさんの体は急激な変化に対して筋肉が大きな力で反発をしてくるためにゆっくり時間をかけて日頃使っていない収縮したままになっている筋肉を伸ばします。

太腿の筋肉を伸ばす かかとの筋肉を伸ばす
太腿の筋肉を伸ばす かかとの筋肉を伸ばす

この姿勢ではAさんは太股の内側の筋肉に痛みを感じているそうです。
さらに膝を立てた状態で足を左右に振り、さらに筋肉の緊張で変形した腰から骨盤のマッサージを行っていきます。

続いてAさんは、かかとの緊張した筋肉を伸ばすために、腹ばいになり膝からつま先を上に曲げます。この状態で日頃筋肉の緊張からつま先を伸ばした状態になっているかかとにゆっくり力を加え曲げていきます。先生は腕をAさんの足の裏に当てて体重をかけながらゆっくり力を加えていきますが、Aさんのかかとは90度以上には曲がりません。わたしもちょっとやらせてもらいましたが、生半可な力ではまったく駄目でした。

かかとの筋肉を伸ばす
かかとの筋肉を伸ばす
緊張が強く、とても強い力が必要だった

Aさんの下半身、特に足の力は通常の1/4以下だそうです。
上向きに寝て太股から足を持ち上げようとしても10度以上あがりません。腹筋が弱いことも有るでしょうが、足の重さに筋肉が負けているという説明に私は初めてAさんの障害に触れたような気がしました。
腹ばいに寝て足を持ち上げようとしてもやはり10度程度しか上がりません。今度は腰の筋肉の緊張から足をあげる度に腰まで動いてしまいます。

上方向に足をあげようとしても足の重みに筋力が負けてしまう 後向きに足を上げようとしても腰から太腿へかけてある緊張で足が上がらない
上方向に足をあげようとしても
足の重みに筋力が負けてしまう
後向きに足を上げようとしても
腰から太腿へかけてある緊張で
足が上がらない

Aさんは開脚も太股の筋肉の緊張から自分の力ではできません。先生が膝を太股の間に置いて力を加えますが、30度程度開いたところでAさんが苦痛そうな顔をしています。

開脚で太腿の筋肉を伸ばす
開脚で太腿の筋肉を伸ばす

栗原先生のリハビリは私への説明をしながら30分ほど続きました。その中で私が疑問に思ったのは、このリハビリを専門家以外の家族など身近な人が出来ないものか?というものです。もし出来れば毎日Aさんは日頃緊張している筋肉を伸ばす運動ができるわけです。以前Aさんへ尋ねたときには特殊な技術だから一般の人には無理だということでした。
しかし栗原先生の答えは「出来るよ」という簡単なものでした。

ということはAさんは毎週会社を休んで1日がかりで病院まで来てリハビリを受ける必要が無くなるのではないか?と考えてしまいます。
しかしAさんは

ある部分で家庭で出来る範囲ことと
微妙な力加減なんかでやはり専門家の手が必要になるのではないかと思います。
と譲りません。こうなるとその微妙な力加減が何なのか?知りたいと思いますが、知ってどうなるというわけでもないので、引き下がりました。

次にAさんは装置を使って足首の筋を伸ばす治療に移りました。岩崎先生のもと、Aさんが「死刑台」と呼んでいるその装置に横になり、胴と両足を皮のベルトで縛られて固定されます。その時にAさんの足はつま先だけでなく、かかとも板に着くように体の位置を調整されます。
次に台を垂直に立て、Aさんは縛られたまま立ち上がります。そして足を乗せている台のつま先の部分が自動的に上下を始めます。しばらくしてAさんは足の痛みを訴え、先生が上下動の量を調整しました。この状態で15分間Aさんはかかとの筋肉を伸ばしたり縮めたりを機械の力を借りてやることになります。

かかとの筋肉をを伸ばすための装置に横になるAさん 15分間かかとのの筋肉を伸ばす
かかとの筋肉をを伸ばすための装置
に横になるAさん
15分間かかとのの筋肉を伸ばす

日頃、かかとがつま先立ちの状態になっているAさんにとっては、かかとを90度にされ、それを上下に動かされるのはとても苦痛を感じるようです。
そしてAさんにとってかなりの運動量なのか、15分たって車椅子に移った後もしばらく足の裏が攣った状態で動けず、先生にマッサージを施してもらっていました。

最後に平行棒を使った歩行訓練です。これは理学療法士の先生が付いてくれないのですが、Aさん一人で自主トレーニングです。”再びAさん自身の障害の話”の中でも触れていますが、クラッチを使って歩いているときにはつま先だけで歩いていますが、平行棒ではかかとを付けて歩く事をイメージしながら、体重をかけて、かかとを床に着けながら歩きます。
クラッチで歩く時に比べゆっくりです。そうしないとかかとを付けることなく歩いてしまうのです。
Aさんは

かかとが付くまでちょっと間が必要なのです。
きっと、脳からの命令が遅いのかもしれませんね。

さきほどの「死刑台」で感じたアキレツ筋や足の裏への痛み程ではないのですが、フクロハギの部分の筋肉が伸ばされて痛みは感じるそうです。

クラッチを使って歩いている時の後ろ姿。右足の運び方がおかしいのが判る クラッチを使って歩いている時の横から見た姿。
クラッチを使って歩いている時の
後ろ姿右足の運び方がおかしいのが判る
クラッチを使って歩いている時の
横から見た姿
並行棒を使って、かかとを付けて歩くイメージを訓練している 並行棒を使って、かかとを付けて歩くイメージを訓練している
並行棒を使って、かかとを付けて歩くイメージを訓練している

この日私はビデオを回して歩いている姿を撮ってAさんに見てもらいましたが、自分の歩く姿を見るのは初めてだったようです。「自分の歩き方が面白い」なんて笑いながら実況中継をしてくれますが、私には腰のあたりから足にかけて動きがぎこちないのは解るもののなぜそのようになるのかは理解できません。

この日はリハビリの後に1年ぶりの診察を受けました。診察まで受けると時間内に会社に戻ることが出来なくなり有給休暇を取る必要が有るからです。ただし医者からは「有給休暇の数より自分の体を大事にしなさい」といわれたそうです。 そして「足首が以前と比べて大部硬いですね」といわれたところで言葉を切られたそうです。Aさんは一瞬”手術が必要なのか”と思ったそうですが、医者もニヤリと笑ってプールなどで運動をしなさいといわれたそうです。

よかったですね。手術をすれば半年程度、短くても数ヶ月は病院で暮らす事になるようですからほんとうによかったです。

私はこの話を聞いたときに心に誓いました。

Aさんが、どんな理由を付けようがプールで運動させるぞ!

ところがこれがどんなに大変なことかその日の内に思い知らされることになったのです。

 
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