Aさん買い物をする

1998年7月3日
7月4日にやはり脳性麻痺で障害を持つIT君の25歳の誕生パーティーを我が家でやることになり、柏の高島屋にプレゼントと食料品の買い出しに行くことになりました。

車で自走式の立体駐車場へ乗り入れ、案内係に車椅子を利用する事を伝え車椅子用の駐車場へ駐車させてもらいます。この辺は私も慣れたというか図々しくなって絶妙のタイミングで「車椅子を使いますので」と大きな声でいえるようになり、Aさんからも「強くなりましたね」といわれる程です。車の後ろから車椅子を降ろし、Aさんが座りやすい位置に車椅子を広げて置くことも素早くなりました。
車椅子に座ってもらい、駐車場を出るときには溝の上に被せてあるグレーチングに前輪がはまらないように少し斜めに通過します。歩道との段差ではステッピングバーを踏み前輪をわずかに浮かせてから前輪を歩道に乗せます。
1年半前に私が初めて町中で車椅子を押して段差を越えるときには、わざわざ前に廻って前輪を持ち上げようとしたそうで、Aさんは「この人に任せていて大丈夫かしら」と思ったそうです。

そんな私が約2年で確実に自分の中にもテンポができあがりつつ有ることが実感できます。

デパートの中に入り地下の食料品売場に向かうためにエレベーターに乗ります。
混雑していると入れないこともありますが、たいがい中にいた人が両脇に避けてくれます。それでも乳母車と違って車椅子の横幅はかなり広いのでエレベータに乗れる人数は定員より少なくなってしまいます。途中の階で扉が開いて乗り込もうとする人はたいがいAさんの姿を見つけて「お!」といった表情をして、乗り込んでくる人と諦めて次のエレベーターを待つ人に分かれるようです。私もきっと驚いた表情をしていたに違い有りません。

このデパートの買い物スペースは広くもなければ狭くもない標準的なものでしょう。場所によっては買い物客で通りにくい場所もありますが、陳列物や荷物で通れないという事は有りませんでした。

Aさんが買い物をするときには買い物かごを膝の上に載せて、そこに品物を入れていきます。「それじゃー、江戸時代の拷問だね」というと、Aさんは「いつも荷物持ちですから」と笑っています。しかし買い物かごを膝に乗せると、どちらか片手でかごを押さえて車椅子を片手で操作するようになり、かなり面倒です。私が車椅子を押し、Aさんが品定めをしてかごに入れるという形になりました。
しかし、いつもの事ながらカウンターになっている肉屋さんは話をするのも大変だし、陳列棚の上の方の品物はどうしても手が届きません。Aさんが1人で買い物をするとなると誰かに声を掛けて取っ手もらう事になるのでしょう。

そして最後にレジのところまでやってきてトラブルが発生しました。レジが沢山並んでいてお客さんが通るその場所は幅が狭くて車椅子がやっと通る事が出来る幅しかないのです。そこに買い物かごを積み上げてあるものですから、Aさんはかごをどかしてもらうまで通ることが出来ませんでした。

つぎに専門店街へ行ってプレゼントを買うことにしました。
私は食料品を車に置きに戻り、友達が車椅子を押して隣の建物へと歩いていきました。
しばらくして私が専門店街へ行ってみると、3階から2階へ降りているはずのAさん達が向こうから歩いてきます。声をかけると、「階段とエスカレーターしかない!」とのこと。まさかと思い店員に尋ねてみると、入り口の外側にエレベーターがあるのでそれを使って2階に降りてくださいとのことでした。専門店街は閉店後も食堂が遅くまで営業しているのでこのような構造になっているのでしょう。
私達は来た道を戻って2階へ降りることが出来ました。

車椅子を利用する人の行動範囲が限定されてしまうという事をこの日は身を持って体験する事ができました。

 
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